鶴が蛙にキスをした。
きっかけは単純だった。ただ、盲目の鶴が、人間と蛙を間違えた。
一つ、蛙はため息をついて鶴に問いかける。
「君がしたかったのは、本当にこれなのかい?」
鶴はふと涙を流し、蛙はただ呆れた様に、夜の寒空に声を投げかけた。
冬の寒さは二人に堪えた。
Queenの前で鶴は判決を待つ。
「それで、私は穴に落ちるのですか?」
Queenは両目を閉じて首を振る。
「では、私は一等星になるのですか?」
Queenは両目を閉じて首を振る。
「では、私はどこに?」
Queenはようやく両目を開けて、それから一泊半置いて窓を見る。
「貴女は明日から雲になります。そしてすぐ、貴女は雨を降らせるでしょう。」
鶴は翼を広げて、傍聴席に居た蛙を見る。
蛙は、ただ虚しくゲコゲコと鳴いていた。
鶴は深々と頭を下げ、Queenの窓をこじ開ける。
彼女は星空の中で眠ることになった。
そしてすぐ、彼女の雨は田圃を潤した。
「……手相占い?」
鶴羽は不思議そうな声で尋ねる。
「やめておけよ、鶴羽。どうせろくな事言わないさ。」
エルは鶴羽の前に手を出して静止する。
「え〜でも気になるじゃん!エルはこういうの興味無いの?」
「ない。どうせ誰にでも当てはまる事を言ってるだけさ。バーナム効果ってやつ。」
エルは冷たく返し、無理矢理鶴羽の手を引く。
鶴羽は不服そうに文句を言いながらも、大人しくエルに手を引かれた。
二人はいつものショッピングモールで、いつもの様に店を回っている。
鶴羽は服選びが長いので、エルは退屈していた。
その時、エルの視界に何かが映る。
気になって目でそれを追うと、花びらが舞っていた。
暫く鶴羽は戻って来ないだろう。そう判断してエルは舞う花びらの後を追った。
花びらは、ショッピングモールの隅へと流れて行った。
エルが追いつきその花びらを手に取ると、途端にそれは手紙に変わる。
エルは不審がりながらもその手紙の封を開けて中身を読む。
『私は盲目の雨です。今日、貴方は穴に落ちるでしょう。ですが、貴方の最愛の者は一等星になることでしょう。どうか、お元気で。』
エルはその手紙を破り捨て、鶴羽の元へと戻った。
破られた手紙はそれぞれがまた花びらになり、ショッピングモール中を揺蕩った。
Queenは蛙を城の前に呼んだ。
蛙が橋に足を踏み入れようとすると、その橋は音を立てて崩れ、その瓦礫は手紙になった。
そのうちの一つが蛙の頭に乗る。
『私は盲目の雨です。今日、貴方は穴に落ちるでしょう。ですが、貴方の最愛の者は一等星になることでしょう。どうか、お元気で。』
Queenは蛙の後ろに立ち、蛙を崩れた橋に蹴飛ばした。
蛙は橋と一緒に水に落ち、それっきり上がってくることはなかった。
「エル!この服似合う?」
「まぁまぁじゃないか?鶴羽は何着ても似合うだろ。」
「それって……私が可愛いってこと!?」
「知らん。行くぞ。」
エルは鶴羽の腕を引いて、フードコートへと向かった。
鶴羽はうどんを、エルはハンバーガーを頼み席に着く。
「それにしても……このフードコートからは田んぼしか見えないね。まぁ、この辺も田舎だからなぁ。」
鶴羽はどこか諦観した様に言う。
綺麗な碁盤目の道路に、人口の割には多く車が行き交っている。
「ショッピングモールがあるだけマシだろ。」
エルがぶっきらぼうにそう言うと、ブザーが鳴る。
「あ、私のだ。取ってくるね!」
鶴羽が席を立ち上がった時、エルは奇妙な感覚に襲われた。
まるで何かを忘れた様な、そんな感覚に。
しかし、エルはそれを気にすることなくただ田圃を眺める。
蛙がゲコリと鳴いた気がした。
Queenは二つの墓の前に手を合わせる。
Knightが墓を斬ると、中から粘性の泥が溢れ出てくる。
Queenはその泥を自らの腕に塗りたくり、その腕を空に掲げた。
すると雨が降り、民衆は歓喜する。
『盲 雨が ここ 眠る』
『人 蛙が ここに る』
二つの墓は何も言わず、じっとQueenを見つめていた。
あるいは、ただ涙を流していた。
その涙を探そうにも、雨に紛れて見つからない。
Queenは墓を踏んで、つまらなさそうに見下ろした。
「いっぱい買い物した〜!そろそろ帰ろっか、エル!荷物持って〜!!」
鶴羽は両手に抱えた荷物の片方をエルに持つよう促す。
エルは嫌そうにしながらも、文句は言わずに鶴羽の荷物を持った。
二人は歩いて自宅に帰る。
その道中、目の前に鶴が飛んだ。
そして次の瞬間、その鶴は地に落ちた。
鶴は用水路の中に落ちて、翼をピクピクと動かしながら悶えている。
「た、助けないと!」
鶴羽は用水路の中に飛び込み、鶴を助けようと試みる。
しかし、鶴はそれを拒絶し、必死に立ち上がり逃げようとした。
エルは上からそれを見て、またしても蛙がどこかで鳴いた様な感覚を覚える。
結局、鶴はそのまま息を引き取った。
鶴羽は近くの梯子を汚れた姿で登り、落ち込んだ様子でエルに話しかける。
「私ね、夢を見たんだ。白鳥が空から落ちてくる夢。その白鳥を助けたら、恩返しとして空の国に連れて行ってくれたの。でも、その後白鳥は死んじゃって。最後に、お前のせいだって言われたんだ。」
「それが、どうした?」
「知ってた?鶴と白鳥って、仲が悪いんだって。その昔、どっちの方が綺麗かって理由で喧嘩して、それっきり。ふふっ、私は人間なのに、何だか鶴の方が親近感湧くんだ。だからあの時、白鳥なんて助けなければ良かったなって。……あれ?何の話してたんだっけ。まぁ良いや、行こ?」
鶴羽はエルの手を引いてそのまま帰り道を歩いた。
俄に雨が降ったが、すぐ止んで、二人は何事もなく自宅に着いた。
二人の死体は、三日前に発見されていた。
暖かくして、ご自愛ください。