「ドラゴンの空襲だ!!!!」
誰かの叫び声が田んぼに響き渡る。
ここは日夜カエルが合唱を繰り広げる戦場(いくさば)。
今宵もいつもの如く声を震わせようとしていた最中の出来事だった。
突然のドラゴンの空襲に田んぼの水面にも驚きが映る。
「子供から先に逃がせ!!!力のある者はドラゴンを食い止めろ!!!!」
突然の出来事にも関わらず的確に指示を出しているのは佐藤。
つい先日大将に昇進したばかりだ。
このようなイレギュラーな事態にも率先して的確な対応を執り行えるところが認められたのだろう。
真っ先にドラゴンに飛びかかったのはタガメ師団。
その大きな前脚でドラゴンに切りかかるが、ドラゴンは大きな翼でそれを退ける。
しかし、第二第三のタガメがさらに畳みかける。波状攻撃というやつだ。
流石のドラゴンも堪らず後退する。
これに手応えを感じたタガメ師団だったが、その次の瞬間には全員この世を去ることになる。
ドラゴンのアクティブスキル、「咆哮」だ。
十万は居たであろうタガメ達はみなこの「咆哮」でその命を刈り取られた。
しかし、それでも田んぼに住まう者達は諦めない。
彼らには守るべきものがあるのだ。
共にそこで過ごしてきた仲間が、愛する人と結ばれ、授かった子供が居るのだ。
ドラゴンはブレスの構えを取っている。
そこに勇猛果敢に突撃するカブトエビの姿があった。
彼は山下。特にやりたいこともなく、恋人はおろか友達すら居ない。しかし、たった一つだけ守りたいと思った存在があった。
彼は、そのたった一つの為に、自分より何千倍も大きいであろうドラゴンに立ち向かったのだ。
結局、彼はドラゴンの翼にあえなく弾かれ死んでしまった。
ブレスも止められなかった。
田んぼの一角に爆発音が響き渡る。
「怯むな!!!ここで戦わずしていつ戦う!!!!」
「で、ですが佐藤大将!!!敵は我々の何千倍も大きな存在、さらにはあのタガメ師団をまるで赤子の手をひねるかのように!!!」
「敵の大きさがなんだ!!!それに、タガメ師団も戦果がゼロだった訳ではない!!!勝てない存在ではないのだ!!!!」
彼らがやり取りをしている間にも、ドラゴンはさらなる攻撃を続けている。
田んぼは既に地獄絵図と化していた。
ただひたすらに親を呼ぶ子供の声、最愛の人を亡くした者の悲しみ嘆く声、死を恐れ藁にもすがる思いで助けを求める声。
「なぜ私達がこんな目に」「何か悪いことをした訳でもないのに」
田んぼ中が絶望に包まれている。
「第二防衛ラインまで撤退しろ!!!タニシ師団は防衛体制に入れ!!!!体勢を立て直すぞ!!!」
足は遅いものの防御力は鉄に勝るとも劣らない鉄壁のタニシ師団が、ドラゴンの攻撃を防ぐべくドラゴンの前に立ちはだかる。
流石のドラゴンもタニシの群勢には手を焼くようで、田んぼには束の間の余裕が生じた。
この僅かな時間でドラゴンに対する打開策を講じなければならない。
真っ先に言葉を放ったのは結崎。昨年少佐になった、田んぼ軍の中では珍しい女性士官だ。
「ドラゴンに有効な攻撃を加えられる部隊は、ザリガニ師団、トンボ師団、スズメ師団ぐらいだと思われます。これら部隊の適切な運用なしに勝利はありえないでしょう。」
「確かにその通りだ。だが、彼らにはドラゴンの攻撃を防ぐ手立てがない。何か良い案がある者はいないか?」
「佐藤大将、私に良い案があります。」
「田島中佐か。言ってみろ。」
「はい。まず、ゲンゴロウ師団で敵ドラゴンの注意を引きます。その後、ザリガニ師団、トンボ師団、スズメ師団が三方向から一斉攻撃を加えることで短期決戦を狙います。」
「なるほど。確かに彼らの攻撃力であれば、一斉攻撃でドラゴンを倒し切るのも不可能ではないだろう。だが、そこまで上手く行くのか?」
「それに関しては、我々ホウネンエビ師団が何とかしてみせましょう。」
「雪浜師団長か。貴方ほどの方が言うなら信頼しよう。」
タニシ師団の稼いだ時間で、対ドラゴン反攻作戦は整った。
いま、田んぼ軍団の逆襲が始まる!!!
この先は有料記事です。続きを読む為には1500円をお支払いください。(残り 45,137字)